わたしは、わたし(ジャクリーン・ウッドソン) - 乱読大魔王の『We』周辺記事
元職場の同僚さんから「ぜひ」とすすめられて借りてくる。表紙を見ると、褐色の肌にランニングシューズをはいた少女。『ジェミーと走る夏』みたいな話かなと思っていたら、ちょっと似ているところもあった。肌の色が、その人個人よりも、その肌の色をもった人たち全体をひっくるめて見させてしまうようなところが。
▼人種を理由に白人が黒人につらくあたるとは、わたしは思っていなかった。デンバーはそんな場所ではないと思っていた。(pp.47-48)
「わたし」トスウィアは、新しい名前をつけることになった。わたしはイーヴィー。姉のキャメロンは、アンナになった。ずっと住んでいたデンバーにほとんどすべてのものを置いたまま、遠い遠い町へうつり、イーヴィーたちは、新たな「過去」を頭にたたきこんで、� �こで暮らすことになる。
あなたは私の運命です。
父さんの見たことと、少年を撃ち殺した二人の言うことはくいちがっていた。「あいつが銃を持ってると思ったんだ」「あの子は、きみのほうを向いてたじゃないか。両手をあげて立ってただけじゃないか。(p.43)
父さんは、法廷で証言するまで悩みもした。上司からも「説得」されもした。よく考えるんだ、二人をしょっぴくのは間違いかもしれないんだ、二人の人間の夢や誇りを奪うことになるんだぞ、と。
花はかわいい歌詞です。
それでも父さんは、証言することにした。自分は父親でもある警官だ、それが誇りだ、だからこそ私は黙っているわけにはいかないと。「この子たちの父親だってことは、ここで意見を変えて、娘たちがなんの理由もなしに殺されるのを見てるためじゃないんです。…撃たれたのは、わたしの娘だったかもしれないんですよ。子どもが撃ち殺されたという話を電話で聞くのは、わたしの妻だったかもしれないんです!」(p.55)
トスウィアの家には脅迫電話がかかり、銃弾が撃ち込まれた。地方検事からは「証人保護プログラム」で保護することはできる、ただ引っ越さなくてはいけなくなると父さんは言われる。引っ越しを決め、法廷で父さんは証言した。
� �あたしの人生をめちゃめちゃにする」と姉のキャメロンは怒鳴り、トスウィアは親友のルルと毎朝ぎゅっと抱き合い、夜には涙を流して別れる日を送った。引っ越しは、いつなのか、どこへいくのかも秘密なのだ。そうでなければ殺されるかもしれない。
あなたは、歌詞を聞いている
ひきはがされるようにデンバーを逃げ出し、新しい町で、新しい学校に、全く違う「わたし」として通うことになるイーヴィー。まるで自分がいない人になったような気がする。同じクラスにいる「トスウィア」が名前をよばれたときに、返事をしてしまい、いとこの名前なのと言い訳したり。わたしたちは、いったい誰なの?
父さんはぼんやりして家にこもり、自分のしたことは間違っていなかったと思いながらも、投獄された元同僚のことで悩んでいる。母さんは宗教にはまり、母さんと父さんが言い争う声ばかりが聞こえるようになった家。姉のアンナは、16歳になったら入れるサイモンズ・ロック大学へ全額支給の奨学金をもらっていこうと勉強に励� ��。
わたしは?イーヴィーは走りはじめる。走ることが自分を自由にしてくれるとは思わなかったけど、それしかなかったから。「イーヴィーって、脚の長いメクラグモみたい。スパイダー・ウーマンだね」(p.156) 一緒に走る仲間に、コーチに「スパイダー!」と呼ばれるようになり、「わたしは、わたしなのだ」とイーヴィーは少しずつ実感を得ていく。
決して望んだわけではない「人生の書き直し」。誰にあたっていいのかもわからない。父さんが証言しなければよかったのか?もしもそれを選んだとしても、「いままでどおり」の暮らしはたぶん続かなかっただろう。まさに理不尽。その困難な時間のなかで、イーヴィーもアンナも、母さんも父さんも、少しずつ少しずつ「じぶん」のよりどころを見つけようともがく。
▼わたしの人生は、書き直されたんだ。これが最後のバージョンだといいけどな。(p.212)
(6/30了)
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